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★週刊読書人、1/17 井藤千穂
映画『アイリス』の公開によって、マードックへの関心が日本国内でも再燃することが期待される中、彼女の遺作が日本読者に紹介されることになった意義は、きわめて大きい。
執筆当時、マードックには、アルツハイマー病の初期症状がすでに現れていたといわれている。とはいえ本作品は、彼女の後期作品を特徴づける主題と人物造形が出揃った、いかにもマードックらしい作品である。アルツハイマー、すなわち脳の空洞化という悲劇的な体験をも、作家としての成長につなげた、小説家アイリス・マードックの、最後の飛翔の記録なのである。
長年マードック研究に携わってこられた平井氏による、流れるような訳と作家への愛情溢れるあとがきは、それだけで読む価値があり、マードックの世界に読者を惹きつける。多くの読者に楽しんで欲しい1冊である。
★『月刊中国図書』03.1月号 池上貞子
3年前に亡くなったアイリス・マードックの最後の小説。19世紀イギリスの家庭小説風に隣近所の人々が入り乱れて物語を作りあげているなかで、正体不明の”ジャクソン\”の存在だけが異質で、小説世界を救うと同時に脅かしている。作者は晩年の数年間、重いアルツハイマー病を患っていたと言う。物語の最後の、ジャクソンが草のなかに座って、物思いにふける場面の描写は、まさに作者の心象を映しているようで、それが作品として成立し得ていることが、すごいし、こわい。
★図書新聞、02/11/9 井内雄四郎
何ともいえぬ一種のやすらぎ。ジャクソンこそ、この「癒し」の物語の真の主人公であり、「善」の理想に最も近い人物かもしれない??。現代イギリスを代表する作家で哲学者のアイリス・マードックは、1999年、26番目の長篇で最後の作品である『ジャクソンのジレンマ』(1995)を残して、世を去った。この長篇の執筆当時、すでに作者はアルツハイマー病におかされ、しばしば執筆を妨げられたらしい。その意味でも、今回の平井氏の訳業の価値はきわめて大きい。アルツハイマーによって思考作用が永遠に断ち切られる寸前、作者がかくも透み渡った調和的世界を、やすらかでゆたかな生の歓びの世界をうたい上げたことに、私たちは人間の持つふしぎな力を見出して、大きな感動を味わわずにはいられない。平井氏の訳業はこの作者への愛情のにじみ出た流麗なものであり、巻末のくわしい注にも、その熱意がつよく感じられた。第2章にある「猫を盗む男」の注として、わが『源氏物語』中の「若菜上」「若菜下」からの着想を看破したあたりは、その好例だろう。

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