バルカンの心
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| 書籍名 : バルカンの心 |
| (バルカンノココロ) |
| 著者名 : 田中 一生 著(タナカ カズオ) |
| 発行日 : 2007-04-04 |
| 税込価格 : ¥2940 |
| 本体価格 : ¥2800 |
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★『論座』2007年8月号 山崎佳代子:詩人、在ベオグラード評
「橋の哲学」記した薫りたつ長編詩
ユーゴスラビア文学翻訳家田中一生氏による珠玉のバルカン案内。「歴史と文化」「文学をめぐって」「バルカン逍遥」の3部からなり、19の文章が収められている。1972年に書かれた『チトー伝』の訳者あとがきから、昨年9月5・6日、NHKラジオで自らの生涯を語ったインタビューまで、文学に人生を捧げた田中氏の35年にわたる時間が凝縮されている。
「カソリック、正教、イスラム教がもたらしたものと、南スラブ人が異教徒だった時代から保持しつづけた土俗的なものとが
混在した重層的な文化」であるゆえに、これまでひと今の明確なイメージで語るのが難しかったバルカンが、鮮やかな輪郭をもって描き出されている。
学術書ではない。あたたかな眼差しでバルカンの歴史、文化、文学を見つめ、読み解き、読者に語りかける。氏が翻訳に7年の歳月を費やした詩人ニェゴシュの叙事詩「山の花環」、アドリ海の真珠、中世の都市国家を綴る「ドブロブニクとの付き合い方」など、瑞々しい文学紀行、歴史紀行の形をとって、時空をこえた遥かな旅へあなたを誘う。
なかでも「アンドリッチの軌跡」は、ノーベル賞作家イヴォ・アンドリッチが生きぬいた時代と、作家の内なる世界を辿る名文。第二次大戦、ナチスの占頷下のベオグラードで、アンドリッチは沈黙をまもり、壮大な歴史小説『ドリナの橋』をはじめとする3部作の執筆に専念した。文学とは何か、その答えをここに見る思いがする。「この世のすべては橋です。(……)なぜなら、この世のすべては架橋されること、向こう岸に至ることを願っているのですから。つまり、他の人びとと理解し合うことを熱望しているからです」とアンドリッチは語った。この橋の哲学が、田中一生の文学研究を支える思想であった。
外国文学や異文化を学ぶ、それは人と人の出会いを意味し、精神の歴史を人の声で語ること、それが著者の基本的な精神であった。「タナカはなによりも詩人だ」と本書にも登場するセルピアの詩人スルバ、氏の無二の親友が言った。薫りたつ文体で綴られた『バタカンの心』は、田中氏が友情に支えられて書き上げた長編詩、氏が築いた橋なのである。
今年の3月9日、闘病生活を厳かにおえ、本書の完成を目前に田中氏は永眠。「かえってくるから」と、死の床でおっしゃられたそうだ。
(『論座』2007年8月号 山崎佳代子:詩人、在ベオグラード評)
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